愛猫の健康寿命を延ばそう【予防編】
「猫の宿命」とも言われる慢性腎臓病。残念ながら現時点では完全に予防・治療することは難しい病気ですが、家庭での日々のケアや配慮が、発症のリスクを減らしたり、進行を遅らせたりすることにつながります。
[監修獣医師]
原宿犬猫クリニック 院長
本間 梨絵 先生
予防医療と定期検診をセットにしたウェルネスプログラムを提供し、動物を「病気にさせない」ことを大切にしています。
「猫は病気を隠す動物」と言われるように、痛みや不調をあまり表情には出さないため、具合が悪そうだと飼い主が気づく頃にはすでに症状がかなり進行していることがよくあります。
そうしたなかで、オシッコやウンチなどの排泄物には、猫の正直な健康状態がわかりやすく表れます。飲水量と尿量の増加は、家庭で慢性腎臓病の兆候に気づくための重要な手がかりですから、普段からオシッコチェックをしっかり行ってください。
オシッコのチェックポイントは色・量・ニオイです。オシッコが濃縮されずに量が増えれば色が薄くなり、ニオイもあまりしなくなってきます。この変化をより正確に把握するためには、オシッコを液体の状態で直接確認することが重要です。
●固まる猫砂の場合 〜 お玉などを利用
日々のトイレ掃除の際、砂の固まりの大きさを確認することでおおよその量を観察することはできますが、液体で確認するためにはオシッコが砂に吸収される前に受け止める必要があります。
1つの方法として、猫が腰を落としたら、背後からお玉など受け皿になるものをそっとおしりの下に差し入れて受け止めるやり方があります。ただし、お玉を早めに近づけすぎると、猫が警戒して排尿をやめてしまうこともあるのでタイミングが大事です。
●システムトイレの場合 〜 トレーに溜めて確認
トレーにペットシーツなどを敷かずに使用することで、チップ(砂)を通過したオシッコを直接溜めることができます。猫はいつも通りにトイレを利用するだけなのでストレスもかからず、簡単にオシッコチェックができます。
いずれの方法でも、採尿したオシッコを容器に入れて動物病院に持参し、定期的に尿検査を行っておくとなお安心です。
詳しいオシッコチェックの方法はこちら
「腎臓病」と「歯みがき」は一見、何の関係もないように思えるかもしれません。けれども、最近の研究では、ステージが中等度から重度の歯周病があると、慢性腎臓病になるリスクが1.5倍になるという報告があります。
歯周病は主に細菌感染によって引き起こされる炎症性の病気です。歯周病の口腔内細菌は血液を介して全身に広がりますが、この菌がたどり着くことで腎臓にも炎症が起こり、組織が硬くなる線維化を進行させると考えられています。線維化が進めば腎機能は低下していきます。
口腔内細菌は歯垢の中で増殖し、カルシウムが沈着すると歯石になります。歯石がたくさん付着すると歯と歯肉の間に深い溝(歯周ポケット)ができ、そこから細菌感染が歯肉に広がって歯周病になります。3歳以上の猫の約8割が歯周病予備軍だとも言われています。
猫の場合、食べかすは食後24時間以内に歯垢になり、約1週間で歯石になると言われています。こまめに歯みがきをして歯垢を溜めないことが歯周病の予防となり、結果的に腎臓病のリスクを減らすことにつながります。1日1回歯みがきができれば理想的ですが、歯垢が歯石になる前に取り除けるよう、少なくとも週1〜2回の歯みがきを習慣にしましょう。
歯みがき習慣がない場合は、少しずつ練習しながら慣らしていきます。
歯みがきがどうしても難しい場合には、動物病院で歯みがきのコツや、歯周病治療が必要かどうかの相談をしてください。
ストレスとは、外部から何らかの刺激を受けたときに生じる緊張状態のことです。ストレスのおもな原因には、寒冷、暑熱、騒音などの「物理的(環境的)要因」、病気、妊娠、睡眠不足などの「生物学的(身体的)要因」、緊張、恐怖、興奮などの「社会的要因」があります。
猫も人も多かれ少なかれストレスの影響を受けながら日々暮らしていますが、慢性的なストレスや過度のストレスがかかれば免疫力が低下し、感染症やさまざまな病気にかかるリスクが高まります。
哺乳類は呼吸によって酸素を体内に取りこみ、食べ物から得た栄養素と結びつくことで、エネルギーを作り出していますが、この時、酸素の一部から「活性酸素」という物質も作られます。
活性酸素は細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、増えすぎれば身体を酸化(サビ)させ、細胞を傷つけて、老化、がんや心疾患をはじめとするさまざまな病気の原因になります。通常は活性酸素を抑えるための機能が働いていますが、バランスが崩れて酸化に傾いた状態を「酸化ストレス」と言います。
酸化ストレスが高い状態が続けば血管が老化して血流が悪くなり、腎臓への血液の供給が減ることで腎機能も低下すると考えられます。
猫の心身の健康のためにも、過度なストレスがかからないように心がけてください。寒暖差や騒音などにさらされないよう、ストレス要因となるものをなるべく取り除き、猫本来の行動や欲求を満たすことができるように環境を整えましょう。
室内飼育は環境が安定している分、刺激不足にもなりがち。
上下運動したりオモチャで遊んだりすることは猫の本能を満たしてあげることができ、刺激とストレスの発散になります。
愛猫の健康を維持するためには動物病院との連携も欠かせませんが、多くの猫は動物病院が苦手と感じているように思えます。
自分のテリトリーである家から外に出るだけでも猫は大きな不安を抱えているのに、具合が悪くてつらい時に動物病院に行き、注射など痛くて怖い思いをすれば、苦手意識が強くなるのも無理はありません。こうして動物病院に行くこと自体が、猫にとって大きなストレスになってしまうのです。
具合が悪い時だけでなく、健康診断、爪切りや体重測定など、健康な時にこそ気軽に足を運んで、動物病院の雰囲気に慣らしておくことをおすすめします。動物病院が「ときどき行く知っている場所」になっていれば猫も安心でき、通院ストレスを減らすことができます。
キャリーバッグが動物病院に行くときだけに使うものになっていると、キャリーバッグを見ただけで逃げ出すことも。
災害が起こり避難する時にもキャリーバッグが必要になるので、普段から部屋に出して隠れ家や寝床にして慣らしておきましょう。
長時間の移動も猫にとって負担になるので、なるべく近所にかかりつけの動物病院を見つけておくとよいでしょう。
慢性腎臓病になったとしても、早期に治療を開始して症状をコントロールしていけば、十分に長生きすることはできます。将来のためにも、動物病院でパニックにならないように慣らしておくことも大事な習慣の1つです。
猫の宿命とも言われる慢性腎臓病。正しい理解と、適切な日々のケアが、発症のリスクを減らしたり、進行を遅らせたりすることにつながります。ぜひ、ご紹介した7つの習慣で、愛猫の健康寿命に配慮してくださいね。
[監修獣医師]
原宿犬猫クリニック 院長
本間 梨絵 先生
青山学院大学英米文学科卒業、日本獣医生命科学大学獣医学科卒業。都内のホテル勤務を経て獣医師になり、日本動物医療センターにて、内科・外科診療を中心に幅広く経験を重ねる。
2020年7月 原宿犬猫クリニック院長に就任。
原宿犬猫クリニック
「病気にさせない」ことを大切にしたウェルネスプログラムを提供する新しい形の動物病院です。