愛猫の健康寿命を延ばそう【予防編】
「猫の宿命」とも言われる慢性腎臓病。残念ながら現時点では完全に予防・治療することは難しい病気ですが、家庭での日々のケアや配慮が、発症のリスクを減らしたり、進行を遅らせたりすることにつながります。
[監修獣医師]
原宿犬猫クリニック 院長
本間 梨絵 先生
予防医療と定期検診をセットにしたウェルネスプログラムを提供し、動物を「病気にさせない」ことを大切にしています。
「慢性腎臓病(CKD)」(慢性腎不全)は、高齢猫の死因の第1位に挙げられる病気です。厳密に言えば「慢性腎臓病」は病名ではなく、何らかの腎障害が3カ月以上継続している状態を指します。糸球体腎炎、間質性腎炎、腎盂腎炎、多発性嚢胞腎など、さまざまな病気が原因となって、腎臓の障害が少しずつ慢性的に進行していきます。
猫が慢性腎臓病にかかりやすいのには、いくつかの理由が考えられます。
一般的に、猫の祖先はもともと水が少ない砂漠で生活していたため、体内で水分を有効に利用できるようオシッコを濃縮して排泄できる仕組みになっていることから、腎臓に負担がかかりやすいと言われています。
また、腎臓は糸球体、ボーマン嚢、尿細管で構成される「ネフロン」が集まってできていて、ネフロンが1つずつ壊れていくことで腎機能が徐々に低下していきます。1つの腎臓のネフロンの数は、人では100万個、犬で40万個くらいですが、猫では約20万個とやや少ないことも、猫に慢性腎臓病が多い原因の1つだと考えられています。
猫の泌尿器の構造と働きをわかりやすく解説
猫の慢性腎臓病のメカニズムを解明する研究も進み、尿細管の変性によって起こることがわかってきました。
細胞の老廃物が尿細管に詰まることでも変性が起こると考えられていますが、老廃物を取り除く作用のある「AIM」というタンパク質の分子が、人や犬では機能しているのに対し、ネコ科動物では生まれつきうまく機能していないことも、最近の研究で報告されています。
このように、発症のメカニズムがわかってきたことで治療の選択肢も増え、治療薬の開発も進められています。
慢性腎臓病について詳しく解説
腎機能は一度失われたら元には戻りません。腎臓のダメージを抑え、変化に敏感に気づくことができるようになるために、健康な時から行っておきたい習慣を紹介します。
腎臓への負担を軽くするためには、毎日、新鮮な水を飲ませることが重要です。猫はもともとあまり水を飲まない動物なので、水を飲んでもらうためにひと工夫しましょう。
水飲みの容器を変えることで、よく飲むようになることがあります。一般的に、材質はプラスチックより陶器製で、前かがみにならなくても飲めるようある程度の高さがあり、ひげが当たらない大きさの容器を猫は好む傾向にあると言われています。
たまり水を好む猫もいれば、蛇口から流れ出る水が好きな猫もいて、流水を好む場合は置き水よりも自動給水器を気に入ることもあります。
フードボウルとセットで水飲み器を置いている家庭が多いと思いますが、置き場所を変えるのも一案です。
猫がよく立ち寄るお気に入りの場所に水を置くことで飲むようになるケースもあるので、水飲み場は1カ所に限定せず、愛猫の行動パターンを観察して複数箇所に用意してみてください。
冷ましたささみのゆで汁、ウェットフード、ふやかしたドライフードなどを与えることも水分補給になります。
水を意識的に飲ませることは大切ですが、たくさん飲めば安心ということでもありません。なぜならば、慢性腎臓病の症状の一つに「多飲多尿」があるからです。
飲水量と尿量は連動していて、腎機能が低下するとオシッコが濃縮されなくなるため量が増え、水分がどんどん排出されて体が脱水するために水を飲む量も増えていきます。
猫の1日の飲水量の目安は健康状態や年齢、生活環境などによっても異なりますが、体重1kgあたりおよそ50ml程度です。飲水量が増える病気は慢性腎臓病以外にもあり、日常的に目安以上の量の水を飲んでいる場合には何らかの病気の可能性が考えられます。
毎月1回程度、計量カップで飲水量を計量しましょう。まず、水飲み器に入れる水の量を計量し、24時間後に再度計量します。水分の蒸発なども若干ありますが、減った分量が飲水量の目安になります。変化に気づけるよう、量った飲水量は記録しておきます。
「うちのコはカリカリ(ドライフード)しか食べない」「決まったメーカーのものでないとダメ」など、キャットフードに強いこだわりを持っている猫は多いもの。
けれども、慢性腎臓病を発症した場合には、適度にタンパク質とリンを制限した食事療法が必要になる場合も多く、「これしか食べない」という状態では治療に支障を来すことにもなりかねません。いろいろなキャットフードに慣らして、食べられるもののバリエーションを増やしておくことも大切です。
猫の嗜好の幅は生後3〜4カ月で決まると言われ、その時期にいろいろな食べ物を経験しておくと将来の嗜好の幅が広がります。特に水分補給の点からも、ウェットフードにぜひ慣らしておいてください。
猫に必要な栄養バランスが整った手作り食を提供することは、栄養バランスや手間、そして衛生管理の観点からも大変ですし、食事療法が必要になった場合はなおさら食事管理が難しくなります。
腎臓にかかる負担を減らすためにも、普段から栄養バランスのとれた良質な食生活を送ることが重要ですから、信頼できるメーカーの、ライフステージに合った総合栄養食を与えることをおすすめします。
[監修獣医師]
原宿犬猫クリニック 院長
本間 梨絵 先生
青山学院大学英米文学科卒業、日本獣医生命科学大学獣医学科卒業。都内のホテル勤務を経て獣医師になり、日本動物医療センターにて、内科・外科診療を中心に幅広く経験を重ねる。
2020年7月 原宿犬猫クリニック院長に就任。
原宿犬猫クリニック
「病気にさせない」ことを大切にしたウェルネスプログラムを提供する新しい形の動物病院です。